『ふろんてぃあーず 〜バケツさんの細かめな開拓記〜』

では読んだものについて感想を書いていこう。なろう小説のよさのひとつは、さまざまな特性故に、いつでも感想が書けるということにある。
『ふろんてぃあーず 〜バケツさんの細かめな開拓記〜』(以下『ふろんてぃあーず』)はMMORPGを生産職でプレイする主人公を描いている。女主人公のMMORPGものに多い、主人公がなんらかの大病で入院せざるを得ず、有り余る時間をゲームに投入した結果チートじみた成果をたたき出す作品*1だ。感想サイトによれば、世界観はかの有名な生産系MMO、マビノギを元にしているらしい。やりたくなるじゃねーか!
では『ふろんてぃあーず』の特徴はどこにあるだろうか。読んでいて違和感のない程度には緻密な設定と、主人公の性格にある。前者は説明するまでもないところで、後者はある意味では当然と言えると思う。『ふろんてぃあーず』の主人公は、平たく言えば、友人=自分が人間だと認めた人間以外は人間だと思わない性格をしている。それ自体は、なろうの特に奴隷が登場する転生ものの小説にありがちな性格だが、『ふろんてぃあーず』の場合は、自分に都合の悪い行動をした人間を通報することに躊躇がまったくないなどの、効率重視を突き抜けた行動が、MMORPGのせいかやたら隙のない(キャラづけの特徴となる台詞すら日本語として正しい)会話のせいで、血も涙もないものに見えるのである。無論、主人公は(いつからかは不明だが)長期間入院し続けているため、人間離れした性格になるのも仕方ないのだが、読んでいて違和感を覚える場面も少なくない。まあ、この主人公は自分自身を高く評価しているわけではなく、人間関係の面倒さから他人をぞんざいに扱っているように見えるので、奴隷を使う「血も涙もない」タイプの、いやそれおまえがただ他人を支配したいだけですよね?な主人公と違い、違和感はあっても、不快感はまったくないのが、『ふろんてぃあーず』の美点であろう。加えて、プロットがしっかりしていると思わせる構成バランスのよさが、『ふろんてぃあーず』を非常に読みやすい作品として成り立たせている。

*1:この展開の大本は出版されたSFにありそうなんだが、あいにく『接続された女』しか思いつかない。なろう内ではどうだろうか。また、男性主人公ではあまり見ない……と思う。眠り姫的なイメージが関係するのだろうか。